1970年代のアイコン的存在― ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)「オーバーシー」
目次
ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin) 1970年代のアイコンとして
ヴァシュロン・コンスタンタンはスイス、ジュネーブの高級時計メーカーです。
パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲと並んで世界3大高級時計メーカーの一つです。
1755年ジャン=マルク・ヴァシュロンが創業したヴァシュロン・コンスタンタンは最古の時計メーカーです。
特にその名前を有名にしたのがトゥールビヨンをはじめとする複雑機構の機会時計です。
(*トゥールビヨンとは内部のある構造全体を回転させることで姿勢差によるズレを克服した構造のこと。)
1970年代、戦後は世界各国で経済成長の大きな波が終わろうとしていました。
その頃時計界全体に大きな変化の波が襲いました。
通称「クォーツ・ショック」
クォーツ時計の登場です。
瞬く間にクォ―ツ時計が市場を独占し始め、それまで時計製造の中心を担っていたスイスの老舗メーカーたちは厳しい状況に置かれてしまいました。
そして安価なクォーツ時計に対抗するため、何よりも生き残りをかけて老舗メーカー各社はそれぞれ対策に出るのでした。
この時代の流れに老舗メーカーの一つ、ヴァシュロン・コンスタンタンも飲まれて、その苦しみの中生まれたのがヴァシュロン・コンスタンタンオーバーシーという時計です。
写真:ヴァシュロン・コンスタンタンの時計たち
当時オデマルス・ピケは対抗策としてこれまで存在しなかった、全く新しいものを発表しよと獅子奮闘しました。ポストモダニズムの流れを汲んだ1970年代のスタイルで重要となったポイントは「自由であること」「形式ばったものでないこと」そして「肩肘張った背伸びしたものではないということ」に集約されています。これまで製造してきた古典滝な時計から変化を遂げ、ゴールド仕様のドレスウォッチの発表にこぎつけました。当時のブランドのマネージングディレクターとしてジョージス・ゴレイがこの頃から新たな腕時計のジャンルを開拓するため参加しました。
その結果1972年に新たな時計を発表しました。ロイヤル・オークという時計です。この腕時計はハイエンドスイス時計に新たな光をもたらしました。ジェラルド・ジェンタがデザインしたアヴァンギャルドなスタイルはスポーティーな軽さの中にスチール時計特有のエレガントさが共存していました。この時計のケースとブレスレット部分には美しい一体感があります。発表当初は批判もありましたが、腕時計の歴史に一石を投じた時計であることは間違いありません。
写真:オデマウス・ピゲのロイヤル・オーク5402STとパテック・フィリップのノーティルス3700/1A
これらの時計は1970年代、伝説的な時計デザイナージェラルド・ジェンタによる作品です。
ビンテージ時計のアイコン的存在
オーバーシー:ヴァシュロン・コンスタンタン222
ロイヤル・オークの発表後、いくつかのハイエンドメーカーからスポーツ時計が生まれました。その中にはパッテク・フィリップのノーティルスやIWCインジェニールジャンボSL(両方ともジェンタがデザインした時計)があります。そして世界最古の時計メーカーであるヴァシュロン・コンスタンタンもまた、新たにスポーティーなテイストを持つ時計の発売に乗り出しました。
ブランドの創立222年を記念してヴァシュロンは222という時計を発表しました。デザイナーはヨーグ・ヒセックです。ピゲやパテック・フィリップ同様、222はクラシカルなドレスウォッチを中心に作ってきたヴァシュロンにとって大きな方向展開でした。
写真:37ミリ版のヴァシュロン・コンスタンタン222
名高い「ジェンタデザイン」という共通点を持つ時計の中でも222の特徴はその形にあります。ケースは薄型で丸みをもったベゼルと5時のダイヤルの近くにはマルタ十字が描かれています。この時計は水深120メートルまでは耐水仕様となっています。ブレスレット部分はつなぎ目は細長い六角形になっているのが特徴的です。ヴァシュロンではVC1120 キャリバーを搭載しています。これはイェーガー・ルクートルのキャリバー920がベースになっています。そして興味深いことに同じルクートルのキャリバー920は1960年代に発表された超薄型の自動時計、ロイヤル・オークやノーティルスにも搭載されています。
写真:222
222にはいくつかのバージョンが存在します。そしてその素材もスチールやゴールドなど様々です。形も変化していて、四角いフォルムのものも存在しました。222の製造数は限られた数しか製造できませんでしたが1980年代半ばまで作られ続けてきました。
222は時計の歴史を語る上で1970年代を代表するアイコン的存在であると言っても過言ではないでしょう。
写真: スチールと金仕様のヴァシュロン・コンスタンタン222
スポーティーなテイストが一世を風靡した時代、222に続く時計として333が発表されました。この時計のケースは八角形になっていて、ブレスレットと一体化したデザインは222の遺伝子をそのデザインに感じることができます。
写真:1990年半ばのクロノグラフバージョンのフィディアス
ヴァシュロン・コンスタンタン オーバーシー フェーズ1(1996年~2004年)
ヴァシュロン・コンスタンタンはスポーツ時計での成功を経て1996年にオーバーシーという新たなモデルを発表しました。この時計は333同様、222の理念を直接引き継いでいる時計です。発表された当時、ヴァシュロン・コンスタンタンは買収されました。会社が変化していく中で開発されたオーバーシーを担当したのが、デザイナーのディーノ・モドロとヴィンセント・カウフマンでした。この時計をただのハイエンドメーカーが作ったスポーツ時計で終わらせるのではなく、世界を飛び回る人たちに適した時計を手狂することがメインミッションでした。
画像:オーバーシーのポスター
222のようにオーバーシーにもマルタ十字のマークがありました。仕様としては大きさが3ミリ、水深150メートルまで耐水性があり、VC1310が搭載されています。また、クロノグラフはフレデリック・ピゲ1185を元にしたうえに大きな日付表示の機能を追加しています。
写真:18K ゴールドバージョンのオーバーシー。キャリバーVC13100を搭載。
写真:オーバーシークロノグラフ。キャリバーVC1137を搭載。日付表示が大きい。
ヴァシュロン・コンスタンタン オーバーシー フェーズ2 (2004年~2016年)
オーバーシーの新たなバージョンが2004年に発表されました。
デザインはさらにモダン化しました。特に金属製のブレスレッ部分はマルタ十字の半分をかたどっていて、着け心地の良さを追求しました。大きさは42ミリになり、搭載しているバルジューはVC1126です。クラウン部分を保護していたダイヤルが新しくなったので全体的にスポーティーな雰囲気が増しました。
写真:時間と日付表示のある第2世代のオーバーシー
2006年にデュアルタイム表示のオーバーシーがコレクションに追加されました。新たにもう一つのタイムゾーンを表示することができるため、機能性がアップしたと言えます。よりパワーが必要となったため、搭載したのはVC1222でした。
写真:デュアルタイム表示のオーバーシー
2007年の革新は特筆すべきだと思います。この年に発表したオーバーシーでは初めて革製(合皮もしくはアリゲーターの革)のストラップ仕様のものが披露されました。この時計はアメリカ限定版でした。
写真:2007年アメリカ限定版のオーバーシー。
このような商業的成功を収めたヴァシュロン・コンスタンタンは複雑なパーペチュアルカレンダーのクロノグラフを発表したり、各部品の素材で遊んでみたりしました。そしてそれぞれに「限定版」と付け、自社のコレクションを増やしていきました。
写真:2011年のパーペチュアルカレンダー付き時計。ブティックエディションと呼ばれた時計。ケースの裏側にはアメリカ大陸の名前の由来となったアメリゴ・ヴェスプッチの帆船が描かれています。
ヴァシュロン・コンスタンタン オーバーシー フェーズ3(2016年)
2016年に入り、ヴァシュロン・コンスタンタンはオーバーシーシリーズのリヴァンプ(改定)を行いました。ヴィンセント・カウフマンがデザインしたものをさらに洗練させようという目的でした。ケースは以前のものと比べて樽型に近づきました。そしてマルタ十字は6か所に切り込みが入ったデザインに変更されました。ケースの裏側には特に何も刻まれていませんが、サファイヤクリスタルと機械時計の醍醐味、その機会構造を見られるようになりました。
写真:2016年オーバーシー
2016年にヴァシュロン・コンスタンタンはオーバーシーのリヴァンプ(改定版)をコレクションに加えました。さらにデザインを洗練させた美しい時計です。全体のデザインはヴィンセント・カウフマンが行い、流れるような一体感を強調させました。ケースはより樽型に近づき、マルタ十字のロゴのデザインも以前の8個の切り込みのあるデザインから切り込みを6個に変更しました。ケースはサファイヤのような青い縁取りが上品さを演出しています。
写真:2016年のオーバーシーには新たなヴァシュロン・コンスタンタンの5100自動キャリバーを搭載。
第三世代のオーバーシーは以下の特徴をもったモデルがあります。
・超薄型パーペチュアルカレンダー:直径41.5ミリ、キャリバーVC120QP搭載
・クロノグラフ:直径42.5ミリ、キャリバーVC5200搭載
*自社生産の新型キャリバー
・世界時計:直径43.5ミリ、キャリバー5100搭載
・超薄型モデル:直径40ミリ、キャリバー1120搭載
・日時表示:直径41ミリ、キャリバー5100搭載
*自社生産の新型キャリバー
・小型モデル:直径37ミリ、キャリバー5300搭載
*自社生産の新型キャリバー
特に40ミリの薄型モデルのオーバーシーはアイコン的な時計がカムバックを遂げたモデルなので、ファンは大いに喜びました。
搭載されているキャリバー1120は自社生産しているもので、JLC920がそのベースとなっています。JLC920 は大変有名なキャリバーの一つで、時計史を変えたともいえるロイヤル・オーク、ノーティルス、そして222にも使われていたムーブメントです。これらの名機たちの遺伝子が第三世代のオーバーシーに宿っているのです。
写真:薄型モデルのオーバーシー
写真:珍しいラバーストラップのオーバーシー(世界時計)
写真:オーバーシークロノグラフではもう大きな日付表示のものは作られていません
写真:VC52000 クロノグラフの裏側