バカラ・クリスタルガラスを作り上げる技法
目次
今回は、美しいバカラのクリスタルガラスを作り上げている『素材』や『技法』についてご紹介したいと思います🎶
動画でバカラグラスとその他のグラスの違いを知りたい方はこちらをご覧くださいませ。
バカラの歴史はこちらから
【素材】
<クリスタルガラス>
クリスタルガラスの定義は、1971年にフランスで発布されたアレテと呼ばれる行政命令で定められ、その後、ヨーロッパ全域で守られるようになりました。その定義とは、光の屈折率が1.545以上であり、かつ、酸化鉛の含有率が24%以上であるガラスを、クリスタルガラスと呼ぶ、というものです。
中でも、バカラのクリスタルガラスは、酸化鉛の含有率がすべて30%と割合が高くなっています❕酸化鉛の含有量が多いことにより、透明度、光の屈折率、反射率がたいへん高く、音色も澄んだ、より美しいクリスタルガラスに仕上がるのです。カットなどの加工がほどこされることで、七色の輝きを見せてくれます✨
クリスタルガラスは、1671年、イギリスのガラス工場で実験的に酸化鉛を配合したことにより生まれました。この水晶のように美しく優美なガラスは、その後、周辺の国々にも広まっていきますが、フランスでは、財政悪化、さらに1789年からのフランス革命により、国内が混乱し、クリスタルガラスが発展を見たのは19世紀に入ってからとなりました。
<オパーリン・クリスタルガラス>
オパーリン・クリスタルガラスは、乳白色をしたガラスのことです。
乳白色をしているため、不透明または半透明なガラスです。
骨を焼いた粉からとれるリン酸石灰をガラスの原料に加えると、化学反応が起き、透明だったクリスタルガラスがだんだんと乳白色をおび、不透明になっていきます。
作業工程が多ければ多いほど、乳白色が濃く、不透明度が増していきます。
宝石のオパールに似ていることから、オパーリン・クリスタルガラスと呼ばれるようになったのでした💎
【形をつくる】
<宙吹き成型>
吹き竿の先に、窯で溶かしたガラスを巻きとり、空中で吹き竿をまわしながら息を吹き込んで成型する方法です。
ハサミやコテなどを使って形を整えます。
吹き加減がたいへん難しい、高度な技能が求められる技法です。
型にはめるわけではないので、まったく同じものができることはありません。
紀元前1世紀ごろに発明された技法で、製法が確立した古代ローマの時代から、そのやり方はほとんど変わっていません。
ガラス器作りの基本中の基本として、今も用いられている技法です。
<型吹き成型>
木や耐熱粘土、金属、石膏などで型を作り、その中に、熱して溶かしたガラスを吹き込んで成型する方法です。
ガラス種を流しこんでから型を閉じ、吹き竿を吹いて成型します。
宙吹きではできない形をつくることが可能です。宙吹き技法の応用として、同じ頃に発明されました。
人間による手作業なので機械製ほどの正確さはありませんが、同じ形の器を何個もつくることを可能にしました。
また、型に凸凹をつけておくことで様々な文様を器につけることができます。
<型押し(プレス)成型>
上記2技法と異なり、こちらは吹きガラスではありません。
金属などでつくった凹型と凸型を用います。溶けたガラスを凹型に流しこみ、その上から凹型を押しつけて成型します。
この技法は、19世紀に考案され、発展をみました。
文様を鮮明に短時間でうつしとることができます。
型吹きガラスよりも多様な形、文様を実現することができるので、ガラス製品の幅を大きく広げた技法です。
この技法は、元々は吹きガラスよりも前の紀元前1500年ごろには使われていましたが、当時は粘土型を使っていたため、型ひとつにつき、ひとつの器しか作れなかったようです。
【装飾】
<カット>
いろいろな形のグラインダーに金剛砂や水をつけながら、ガラスの表面に精巧な幾何学模様を彫りこむ技法です。
グラインダーとは、回転させた円盤で加工をする機械のことです。
グラインダーの断面により、菱山グラインダーなら線、かまぼこ形なら凹面、平面形なら平面の文様をカットすることができます。
鉄、木盤、コルク盤の回転盤を使い分けて模様をつけ、研磨していきます。
全工程を一気に行わなければいけないので、職人は高い技能を求められます。
カットした部分がプリズムのように光を屈折、反射させるので、きらきらと美しいきらめきをもたらしてくれます。
クリスタルガラスの美しさを際立たせる、最もメジャーな技法です✧
和ガラスでは、切子ガラスと言っていますね💕
<被せガラス>
ガラス素地がまだ熱いうちに、別の色ガラスを被せる技法です。
ガラスの断面に色の層ができ、カットなどの加工をほどこすことで、色のグラデーションが現れます。
被せガラス独特の発色が美しく、単色のガラスとは違う、色や光を楽しむことができます。
2層のものから数層重ねたものまであります。
<エッチング>
薬品でガラスを腐食させて文様を彫る技法です。
ガラス表面の加工しない部分をパラフィンなどの保護膜でカバーし、削る部分のみを露出させ、フッ化水素酸と硫酸の混合液に浸します。すると、酸で腐食するので、そこを削ったりして凹凸をつけることで、文様ができあがります。
<エナメル彩>
完成した器に、エナメルで図柄を描き、低温で焼きつける技法です。
融点の低い色ガラスを砕いて粉末にし、油と松脂で練り、ガラス表面に筆やシルクスクリーンを使って彩色、その後、低温で焼きつけます。
エナメル顔料が溶けるのと同時に、器本体のガラスも少し溶け、一体化するので、剥落や変色がほとんどありません (^-^)
13~15世紀のイスラム美術で栄えた技法で、19世紀、アール・ヌーヴォー全盛の時代にも多く用いられました。
エナメル顔料には、溶剤の成分比により、透明なもの、半透明のもの、不透明なものがあります。
<金彩>
金の顔料で彩色し、加熱処理をほどこすことで金をガラスに接着させる技法です。
顔料は、クリスタルガラスに有機結合剤を混ぜた、ガラス質の溶剤でつくられています。
金粉を加えると、金彩がさらに強調されます❕
焼いた後、めのうなどの硬質の石で磨くと、表面に光沢を出すことができます。
磨かなければ、マットな質感にしあがります。
バカラでは、1833年からこの技法が用いられています。
ナポレオン時代につくられた、アルクールのエンパイアシリーズでは、ふんだんに金彩がほどこされました。
<グラヴュール(グラヴィール)>
グラビュール(グラヴィール)とは“彫刻”を意味するフランス語で、
英語では、ホイール・エングレーヴィングと呼ばれています。
さまざまなサイズの小さな銅製の円盤(ホイール)の刃に、金剛砂やダイヤモンドの粉といった研磨剤をつけながら回転させ、ガラス表面をおしつけ、浅く少しずつ削ることで、繊細な彫刻をほどこす技法です。
浅い凹凸で、緻密なデザインを可能にする、表現力豊かな技法と言えます🎶
元は、水晶の彫刻に用いられていた技法でした。バカラでは、1839年以降にこのグラヴュールが劇的に進歩しました。
難しい技法で、グラヴュール作品はいずれも高価になっています (^^;
バカラでは1878年以降は、タイユグラヴュールと呼ばれる方法が広く使われています。
旧来のグラヴュールよりも大型で硬いコランダム(網玉)のホイールが使われ、
彫った後、酸処理をほどこして光沢を出します。
深く大きな装飾を、カットの限界まで彫ることができる技法です。
<ラスター彩>
ガラス表面に虹色の金属光沢をほどこす技法です。表面に金属酸化物で文様を描き、金属の薄い膜を焼き付けることで、虹色の美しい輝きをもつようになります✧
エナメルとは違い、透明で厚みがありません。
バカラでは、エナメル彩をラスター彩の上にほどこした作品が多く存在します。
<アプリカシオン>
できあがった器に、溶けたガラスの塊を接着させる技法です。ガラス塊を接着させてから形を作る場合もあります。
ピッチャーの取っ手や、装飾的なモチーフを作ったり、部分的につけるのに用いられます。
別名の「アップリケ」なら、イメージもわきやすいですね (^-^)
<マルトレ>
“ハンマーでたたかれた”という意味のフランス語で、ガラスの表面に、金工の鎚目のようなカット模様をほどこす技法です。
【ガラスの色】
すばらしい発色の美しい色ガラスは、バカラの魅力のひとつです💛
そんな色ガラスは、金属酸化物などの着色剤をガラスに加えることで、作られます。同じ着色剤であっても、ガラスの原料、酸化、還元のしかたによって、色調が変わり、様々な色合いを出すことができます。
被せガラスなどの色ガラスは、1840年に最盛期を迎えました❕
赤色を出すには、金、銅、セレンなど、
黄色は、鉄、銀、ウラニウム、セリウム、チタンなど、
青色は、銅、コバルトなど、
緑色は、鉄、銅、ウラニウム、クロムなどが用いられます。
【ガラスの温度】
クリスタルガラスの製造過程ではまず、ガラスは1350~1450℃で溶解されます。
1250℃で窯の中から種として取り出され、空気に触れて冷めていき、液状だったものがペースト状になっていきます。
この状態のときに、ガラスを吹き始めます。
成型されてきたら、台の上で転がしながら軽く吹き、いろいろな道具を用いて形を整えます。
成型されたガラスは、徐冷窯に運ばれ、少しずつ冷まされます。
この工程は、ガラスの状態を安定させるために大変重要で、ここを省くと、
ちょっとの衝撃で砕け散ってしまうガラスに仕上がってしまいます。
途中で650℃以下になってしまうと、加工ができなくなってしまうので、
その都度、焼き戻しをして温度を上げます。
このように、ガラスが溶けた状態で、熱いうちに成型や加飾を行う作業のことを
「ホットワーキング」と呼びます。
クリスタルガラスのベース部分を作る工程になります。
650~950℃で行います。
エナメル彩や金彩は、約500℃で定着します。
徐冷して完全に冷ました後に、カット、グラビュール、彩色などをほどこす作業のことは、
「コールドワーキング」と呼びます。こうした加工は、ガラスが冷えて完全に固まった状態になって
はじめて可能になるのです。
このように、たくさんの技術、工程の組み合わせによって、バカラの輝かしい
クリスタルができあがっていくのだと思うと、とても興味深いですね✨